歴史好きな男性におすすめ!祭りムードに酔いしれる一日。町ぜんぶが「だんじり」!伝統と人情にふれる日帰り旅
今や全国区の知名度を誇り、多い年には2日間で50万人もの見物客が訪れる「岸和田だんじり祭」。重さ約4トンもある巨大なだんじりを猛スピードで直角に方向転換する「やりまわし」で、多くの人々を魅了しています。そんな勇壮さばかりに注目されがちですが、歴史や文化、だんじりそのものの美、祭と人々との関わりなど、祭の本質的な部分にもぜひ目を向けてみてください。祭にかける岸和田の人々の思いが理解できて、祭見物がさらにおもしろくなるはずです。
諸説ありますが、岸和田だんじり祭の発祥は江戸時代にまで遡り、約300年の歴史を誇っています。町方の人々が上方の祭礼を見聞し、岸城神社の祭礼(夏宮祭)に献灯を行ったのが始まりと伝わっているということです。
※写真提供:岸和田市
だんじり曳行は単なるイベントや催事ではなく、神社の神事に基づいた祭礼行事の一つです。地元の人々は、その伝統を大切に受け継ぎながら今日まで守り続けられてきました。神社の例大祭に合わせ毎年9月14日(宵宮)と15日(本宮)に行われてきましたが、2006年からは敬老の日の直前の土・日曜に変更。2日目の本祭には、岸城神社と岸和田天神宮に氏地のだんじりが宮入りし、御祈祷(ごきとう)や清祓い(きよはらい)などの神事が執り行われます。
岸和田だんじり祭発祥の宮、岸城神社。祭礼2日目の本祭では、氏地町会15台のだんじりが宮入りを行います。
天神地区6町会のだんじりが宮入りする、岸和田天神宮。宮入り時は車止めが撤去され、境内の拝殿前までだんじりが曳き入れられます。
だんじりは、重さ約4トン、高さ・台木の長さともに約4メートルあり、その姿は見る者を圧倒する存在感を放っています。製作工程では、ケヤキの原木を切り出して十分に乾燥させた後、300点以上もの部材に加工し、丁寧に組み上げられています。この部材数は全国に数ある山車(だし)や地車(だんじり)のなかでも類を見ないほど多く、一つ一つに精巧で繊細な彫刻の細工が施されているのが特徴です。
※写真提供:岸和田市
彫刻のモチーフやテーマは、龍や唐獅子(からじし)、鳳凰(ほうおう)などの霊獣から、花鳥風月、十二支、七福神、神話、戦記物、民話までさまざま。漆塗りや金箔などの装飾を用いず、ケヤキの木目をいかした彫刻で仕上げられます。大工と彫刻師の匠の技が凝縮された一台は、各町の誇りであり、まさに“動く芸術品”と呼ぶにふさわしい存在です。
岸和田のだんじりは、超一級の芸術品ですが、決して飾っておくだけものではありません。まちの人々は、速く、美しい「やりまわし」を決めるためにまちの宝を2日間にわたって曳き回します。「やりまわし」とは、全速力で角に突入し、豪快に方向転換するだんじり曳行の最大の見せ場です。地元の方言で、「やって(突っ込んで)」「回す」が語源とされており、“やって回す”という言葉の通り、勢いと技術がぶつかり合う、緊張感と迫力に満ちた場面です。
※写真提供:岸和田市
一旦停止後、鳴物が速いテンポで拍子を刻み、青年団が渾身の力で綱を曳き、大工方が団扇(うちわ)で合図を出し、後梃子(うしろてこ)が外側へ一気に舵をとり、前梃子が前コマに梃子を入れて制動をかける。それぞれの役割が、まるでハンドル・アクセル・ブレーキのように機能し、目隠しで車を操るかのような高度な連携が求められるのです。こうした一連の動作がものの10秒ほどの間に行われ、それらがピタッと合った時に、速く、美しいやりまわしが決まります。そもそも岸和田のだんじりは曲がる構造で作られておらず、ハンドルなど付いていません。それぞれ持ち場の責任を高い水準で果たし、阿吽の呼吸で連携しながら、速く、美しく曲げることこそ、各町の人々が追い求めてやまない、やりまわしの美学なのです。
岸和田城の外堀端にある「岸和田だんじり会館」は、年間を通じて岸和田だんじり祭の魅力に触れられる、まさに“だんじりのテーマパーク”。フロアごとに異なるテーマで展示が行われ、祭の歴史や成り立ち、迫力ある雰囲気、だんじりの構造や芸術性などを体感できるスポットです。ショップコーナーでは、だんじり関連グッズから地元のお菓子などさまざまな商品が並び、お土産探しにもぴったりです。
実物のだんじり展示は、構造や彫刻の粋をじっくりと眺めるのに最適。幕末から平成にかけての各時代で実際に曳行されていた3台のだんじりを見比べると、施された彫刻から時代の変遷が感じられます。これほど間近にだんじりを見ることができりるのは、だんじり会館ならではです。
まず目に飛び込んでくるのは1841(天保12)年製作の旧・紙屋町だんじり。幕末から、明治、大正、昭和、平成まで長きにわたりまちの人たちから愛され続けました。
体験フロアでは、屋根の上で舞いながら後梃子に指示を出す大工方や、拍子を切り替えて曳き手の心を一つにし、足並みを揃える鳴り物など、だんじり祭の重要な役割を実際に体験できます。まるで祭に参加しているかのような気分で、だんじり祭の臨場感を体験してみましょう。
祭の当日は、子どもから大人までまちごとに趣向を凝らした揃いの法被(はっぴ)を身に着けてだんじりを曳きます。館内の壁には各町の法被も展示されており、色づかいや意匠の異なる法被を眺めていると、祭への意気込みやまちの誇りがひしひしと伝わってくるようです。
岸和田だんじり祭をより深く知ったら、いよいよ祭本番。宵祭の曳き出しは早朝6時、準備万端で所定の場所に据えられただんじりが一斉にまちへ飛び出していくように曳き出され、祭の幕が切って落とされます。午後のパレードでは、昔の法被や趣向を凝らした仮装で盛り上げるまちもあり、まさにお祭りムード満点。
※写真提供:岸和田市
そして、本祭の午前からは、岸城神社と岸和田天神宮への宮入りが行われ、祭はクライマックスを迎えます。宮入り後は、時間を惜しむかのようにだんじりを曳きまわし、次々と素晴らしいやりまわしを披露。最後のやりまわしを決めた後、法被姿の男たちが涙を流す姿から、祭に懸けた情熱と誇りが伝わってきます。
※写真提供:岸和田市
両日とも行われる夜の「灯入れ曳行」も見どころ。数百個のちょうちんで飾られただんじりが、ゆっくりと進む風景は幻想的で情緒満点です。夜の主役は子どもたちで、まだ足元もおぼつかない小さな子が法被姿で綱を曳く姿も。勇壮な昼とはまったく異なる、夜ならではの情景が味わえます。
そんな岸和田のまちでは、人々にとってだんじりと祭は日常。毎正時にだんじりが出てくる岸和田駅前のカラクリ時計や、だんじり曳行に支障が無いよう高く作られた岸和田駅前商店街のアーケードなど、まちの随所にだんじりと祭が息づいています。
また、各町にはまちの宝であるだんじりを格納するだんじり小屋があり、まちの人々によって大切に守られています。城下町の風情を色濃く残す紀州街道の古いまち並みに、白壁の蔵のようなだんじり小屋が佇む風景は実に味わい深いものです。
さらに、まちなかのお店でも、祭が日常である光景が見られます。岸和田駅前商店街にある「ヤングレコード」は、地元岸和田や泉州一帯で広く知られる人気店。だんじり関連映像コンテンツの品揃えは、ほかのどこにも負けないと評判です。店頭のモニターでは常にだんじりの映像が流され、一年を通してだんじり祭ムードが感じられます。
そのほか、団扇(うちわ)やタオル、巾着をはじめとしただんじりグッズも豊富で、アイテム数や種類は数えきれないほど。お客さんの要望を聞きながらリニューアルしたり新商品を出したりすることも少なくないとのことで、地元だけでなくわざわざ遠方から足を運ぶファンも多い人気ぶりも納得です。あれこれ迷いながらお気に入りを見つけて、ぜひお土産に買って帰りましょう。
また、だんじりが宮入りを行う神社の授与品を、お土産として授かるのもおすすめです。上は、だんじりがあしらわれた御守など岸城神社の授与品、下は岸和田天神宮の祭礼身代御守各種。祭の時に地元の人たちが身に着けるお守りもあるので、まさに神事とともにある岸和田だんじり祭のお土産にふさわしいアイテムです。
「やりまわし」に代表される勇壮さだけでなく、その奥にある本質を知れば知るほど、岸和田だんじり祭の魅力度は高まり、見ているだけで胸が熱くなります。だんじりを通して、まちの人たちが一つになり、まちが一つになり、そして岸和田全体が一つになる。そんなシーンを目の当たりにすると、なぜ岸和田だんじり祭がこれほどまでに観る者を魅了するのか、きっと分かるはずです。そんな発見や感動を、ぜひ現地で体感してみてください。
※ 掲載情報は施設・店舗の都合により変更する場合がございます。お出かけの際は施設・店舗へご確認の上お出かけいただきますようお願いいたします。